あらすじ
任務を終え、影に溶けるはずだった忍びは突如として異世界へと転移する。
だがその瞬間、彼は気付く。この世界では認識されなければ存在できない――という異常な法則に。
誰にも見られないままでは輪郭は崩れ、やがて完全に消滅する。忍びとして「存在してはならない」ことを叩き込まれてきた彼にとってそれは致命的な矛盾だった。
生きるため、彼は選ぶ。
――目立ちながら、存在を隠すことを。
舞台は、観客の視線が力となる国家公認の闘技場《コロシアム》。
戦士たちは注目を集めることで存在を強化し、名声を得る。だが忍びである彼は分身と認識操作によって観客の視線を撹乱し「確かに見られているのに誰にも認識されない」という矛盾した戦い方で勝利を重ねていく。
やがて彼は、盲目の王と出会う。
王だけは視覚に頼らず、声と気配で彼の存在を捉えた。初めて「いる」と認められた忍びは、王より“黒羽”という名を与えられる。
王の代わりに戦う“認識される存在”として、黒羽はコロシアムに立つ。
だがその果てに彼が選ぶのは己の存在を完全に消し去り、王を“英雄として世界に認識させる”ことだった。
「俺を認識するな。……消える。――でも、忘れるな」
誰にも知られず、記録にも残らない戦いの果て。
ただ一人、王の記憶の中にだけ“黒羽”は確かに存在していた。