あらすじ
まだ「魔素」という言葉が存在しない時代。
魔素石の中継地ケルゴで、帳付けの端仕事をしながら暮らす無所属の観測者セラフィナ・ノクトは、地下保管庫の石と地上の石のあいだに、誰も気にしない差異を見つける。
それは、見過ごせば済むはずの偏りだった。
だが冬が深まるにつれて、その差は記録帳の上で繰り返し現れ、既存のどの言葉でも説明できなくなっていく。
観測環境の消滅、工房からの排除、生活の崩壊。
すべてを失いながらも見続けた先で、ノクトはまだこの世界に存在しない名前を、たった一つ書きつける。
これは、歴史に残る論文の裏側にあった、記録されない時間の物語。