あらすじ
西暦2085年。
地表の気温は、摂氏52度を越えていた。
空は、青いはずなのにどこか濁っている。
遠くの景色は陽炎で歪み、音は少ない。
——静かすぎる世界だった。
⸻
ユウトは、崩れかけた自動販売機の影に座り込んでいた。
手には、ぬるくなった水。
半分も残っていない。
「……意味あるのか、これ」
誰に聞くでもなく、つぶやいた。
生きること。
食べること。
今日をやり過ごすこと。
どれも、ただの“延命”に思えた。
⸻
セミの声は、もう何年も聞いていない。
代わりにあるのは、風の音だけだ。
乾いた風が、砂を運んでいく。
その時だった。
「……ねえ」
後ろから、声がした。
⸻
振り向くと、少女が立っていた。
銀色の髪。
琥珀色の瞳。
この世界では、ありえないほど“きれいな存在”。
「まだ、水ある?」
ユウトは無言でボトルを見た。
半分。
自分でも足りない量。
「……ちょっとだけな」
差し出すと、少女は小さく笑った。
「ありがとう」
その一言が、やけに重かった。
⸻
少女は一口飲んで、空を見上げた。
「静かだね」
「……何もいないからな」
「ううん」
少女は首を振った。
「まだ“終わってない”静けさだよ」
⸻
ユウトは、少しだけイラついた。
「終わってるだろ。見てみろよ、この世界」
崩れた建物。
焼けた道路。
動かない信号機。
「人も減った。虫もいない。もう——」
言葉が詰まった。
⸻
少女は、地面にしゃがみこんだ。
そして、ひび割れたアスファルトの隙間を指さした。
「見て」
⸻
そこには、小さな緑があった。
ほんの数ミリ。
それでも確かに、“芽”だった。
⸻
「……こんなもん」
ユウトは言いかけて、止まった。
その緑は、風に揺れていた。
折れそうで、折れない。
ただ、そこにあった。
⸻
少女は言った。
「これ、意味あると思う?」
⸻
ユウトは答えられなかった。
意味なんてない。
そう言うはずだった。
でも——
目が離せなかった。
⸻
「意味ってさ」
少女は続けた。
「“あるかどうか”じゃなくて」
「“残るかどうか”なんだと思う」
⸻
風が吹いた。
砂が舞い、視界が一瞬白くなる。
それでも、芽はそこにあった。
⸻