あらすじ
世界が裂け、異界の『門』が開く。
その歪みから現れる異形の化物「禍滲」は、絶えずこの世界を脅かしてきた。
識島では、その脅威に抗うため、四大武家が長く戦いの要を担っている。
風斎、妻鳥、雪簇、月渓。
選ばれた血を保ち、継いできた彼らは世界の根源に満ちる力『綾』を掬い、織り、武具と術に変えて、禍滲を斬り、国を守る。
そしてこの世界にはもうひとつ、理不尽に「選ばれて」しまう者たちがいる。
人智を超えた力を宿し、代償として何かを奪われて生まれる者――『天宿り』。
それは天の祝福ではなく、只人の生を歪める災禍であった。
禍滲との終わりなき戦い。
家のために生き、国のために死ぬ者たち。
そして、望まぬまま与えられる、過ぎたる力。
識島は、そうした理不尽の上に、かろうじて均衡を保っている。
■花晨月夕──風斎の章■
一族の滅びを予言する『天宿り』がいた。
それを拾いあげ、隠し、守る男がいた。
その秘密に花を差し出す、幼い姫がいた。
山の奥に隠された、小さな家。
雪の底からすべてが始まり、
花かおるころ、小さな足音が届く。
青葉の陰に秘密はひかり、
色づく梢に肩を寄せる。
白い季節は名残惜しく、
――そして、終わりの春が来る。