あらすじ
安西拓真、四十二歳。経理部勤務。
毎晩、なろうの人気連載を読んでいる。
感想欄にコメントを書く。毎話、欠かさず。丁寧語で、的確に。
ただし——「面白かった」とは、一度も書いたことがない。
ブックマークもポイントも入れない。
それでも毎日読む。毎日コメントを書く。
本当は、誰よりその作品が好きなのに。
かつては自分でも書いていた。十二年前までは。
書かない理由が、十二年分ある。
Discordの仲間と、今夜も他人の作品の設定を語り合う。
知識だけが武器で、武器は裏切らない。安全で、楽で、怖くない。
——ある作家の一言が、十二年間固まっていた何かを、溶かし始める。