あらすじ
世界を救った勇者たちは、その伝説を歴史に刻み、去っていった。しかし、平和が訪れたはずの異世界には、彼らが振りかざした「最強のスキル」や「神授の聖具」が遺した、歪んだ爪痕が残されていた。
物理法則が書き換えられ、大地が異常な魔力に汚染され、かつての決戦地が永久に消えない呪いの温床と化す。そんな勇者たちの負の遺産が世界を緩やかに滅ぼそうとする中、ひっそりと暗躍する男がいた。世界調律局に所属する特級調律師、ゼノ。彼は数百年前に死ぬことができない呪いを受けた不老不死の男であり、かつて勇者と共に旅をした最古の生き残りでもある。
ゼノに与えられた任務は、英雄たちの輝かしい功績の裏に隠された「世界のバグ」を修正すること。神聖なはずの聖剣が放ち続ける有害な放射エネルギーを遮断し、勇者が放った究極魔法の余波で時が止まった村を解放し、召喚魔法の副作用で空間がねじれた迷宮を物理的に解体していく。
彼は剣を振るう代わりに、緻密な魔法術式と、長い年月で培った知恵、そして何度死んでも再生する自らの肉体を道具として使い、淡々と「世界の掃除」を完遂する。
これは、最強の敵を倒す物語ではない。かつての戦友たちが無邪気に救った世界の、その後の不都合な真実を弔う、孤独な職人の軌跡である。勇者伝説の美しき終焉を汚さぬよう、誰にも知られずに世界を正常に戻していく、知的なカタルシスに満ちた異世界事後処理ファンタジー。