あらすじ

四十六歳の篠宮恒子にとって、老犬クロの散歩は、義母と夫に押しつけられた毎晩の仕事だった。灰庭町の静かな夜道を、ただ同じように歩いて帰るだけ。そのはずだった日常は、旧道の入口でクロが二晩続けて足を止めたことから少しずつ崩れ始める。石垣の上から旧道へ消える猫。暗がりの奥で鳴る小さな金属音。何かを知っているようで、決してはっきりとは語らない義母の態度。違和感を抱いた恒子は、家の中から祠の前で撮られた一枚の古い写真を見つける。裏に記されていた名は、御厨菜月。公民館の図書室で調べた恒子は、地方欄の端に小さく載った菜月の行方不明記事に辿り着く。さらに旧道の先にある祠と、その向こうの古い小屋の存在を知り、雨あがりの午後、ひとりでその境を越える。そこで見つけたのは、人を一時的に“置いておく”ために使われていた気配を濃く残す半地下の空間だった。やがて恒子は、町の顔役・真壁恒一郎、真壁の妹・文江、そして菜月の失踪が、長い沈黙の中でつながっていたことを知る。見てはいけないのではない。見たことを、なかったことにさせられてきただけなのだ。夜の散歩はやがて、押しつけられた日課ではなく、沈められた名前を持ち直すための歩みへと変わっていく。

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エブリスタ
エブリスタ2026/04/09
  • 現在の作品散歩 ~押しつけられた犬の散歩が、村の沈黙をほどいていく。~