あらすじ
「智に生きろ」
農民の父が最期に残したその名は、永禄三年の冷たい雨に消えた。
桶狭間の泥の中から見上げた父を奪い平然と通り過ぎていく金色の扇の旗。
のちの天下人・徳川家康――その無機質な目を四歳の信智丸(しんともまる)は死ぬまで忘れないと誓った。
十年後。
乱世に現れたのは、自ら名を「兵(つわもの)」と書き換えた怪物。
元農民軍師・西条寺信兵衛(さいじょうじ・しんべえ)。
彼は、高潔すぎて孤立した天才・明智光秀の唯一の理解者となり「師」であり「友」としてその背中を追い続ける。
だが、本能寺の変という歴史の断絶。
その背後に信兵衛はあの日の「黄金の扇」の影をたぬきじじいの湿った野望を直感する。
「歴史の正解なんて、神様にしか分からねえ。……だがな、俺の目は騙せねえよ」
確かな証拠も歴史の記録もない。
それでも信兵衛は、ただ一人の愛する妻と、友の汚名を晴らすためだけに五十年の歳月をかけて「徳川家康討伐」の牙を研ぎ続ける。
これは、一人の農民の子供が、己の直感と愛だけを信じ泰平(徳川)を根底から塗りつぶす愛と復讐の五十年。