あらすじ
あなたが捨てた妻は大物作家になっていく
復縁メールが鳴りやまない
あの日、あなたは言った
「何も生み出せない女だな」
その言葉は
鋭くもなく
大きくもなく
ただ、静かに
胸の奥に沈んだ
音もなく
傷だけを残して
部屋は、やけに広かった
家具のない空間に
自分の足音だけが響いて
冷えた空気が
肌にまとわりつく
それでも
手放せなかったものがある
言葉
たったそれだけ
誰にも読まれなくても
誰にも届かなくても
夜の底で
一行ずつ
積み上げていった
白い画面に
小さな灯りをともすみたいに
やがて
「続きが読みたい」
たった一行のその声が
暗闇に、風を通した
世界は、少しだけ
やわらいだ
それから先は
静かな積み重ねだった
評価も
数字も
お金も
あとから
ついてきただけ
気づいたときには
私はもう
“何も生み出せない女”ではなかった
その頃になって
あなたの名前が
画面に浮かぶ
「元気にしてる?」
「やり直せないか」
「会いたい」
通知は
何度も、何度も鳴る
まるで
過去が
遅れて追いついてくるみたいに
けれど
もう
指は震えない
胸も痛まない
あなたの言葉で
壊れたものは
あなたの言葉では
戻らない
静かに画面を閉じる
そこにはもう
何の感情も残っていない
ただひとつ
確かなことだけがある
私は
あの日からずっと
生み出し続けてきた
あなたが捨てたものは
何もなかった女じゃない
まだ何も
見えていなかっただけの私だった
そして今
その続きを書くのは
もう
あなたじゃない