あらすじ
2100年、日本。
人の生死は、もはや人の手にはない。
すべては“盤上”で裁かれる。
それが、この国の秩序――からくり戦棋条項である。
勝者はすべてを得る。
敗者は、命さえも失う。
その記録を、ただ処理し続ける男がいた。
市役所に勤める、一人の役人。
彼は、戦わない側の人間だった。
だがある日、
対局によって恋人が“失われた”ことで、運命は反転する。
彼は戦場に立つ。
マブイを持たない、空白の身体で。
彼が使うのは、自分の力ではない。
対局で死んだ者たちの“残滓”。
勝利のたびに、それは彼の中に流れ込み、
代わりに彼自身の記憶が削り取られていく。
何を失い、何を残すのか。
やがて彼は気づく。
このゲームは、勝敗を決めるためのものではない。
人間という存在を削り取るための装置であると。
それでも彼は進む。
たとえ最後に、
自分が何者であったかすら分からなくなったとしても。
これは、
一人の人間が“人間であること”を失いながら、
世界の仕組みに抗う記録である。