あらすじ
千葉県の特別養護老人ホームで栄養課長を務める48歳のケンジ。
就職氷河期を生き抜き、20年以上のキャリアを持つ彼は、グラム単位の栄養価計算と終わりのない予算削減そして業者との折衝に追われる日々を送っていた。
ある夜、一人暮らしのアパートで埃を被っていた自作のWindows XP(メモリ256MB)の電源を何気なく入れた瞬間、彼の意識は16世紀のリスボンへと飛ばされる。
そこは論理的な正解など存在しない不潔で野蛮な大航海時代だった。
無名の「商人見習い」としてポンコツの小舟バルシャに放り込まれたケンジの視界には自分にしか見えないステータス画面が浮かんでいる。
現代の職業特性が同期したのか初期スキルは「食料品取引Lv.3」
ケンジは管理栄養士として培った保存と衛生の知識、そして食材の真価を見抜く目を武器に腐敗と隣り合わせの海でレアル銅貨を稼ぎ始める。
異世界のアイテムを現代に持ち帰ることはできない。
それでも、向こうの市場で商人として泥水のような交渉を重ね「糧食商」や「宝石商」へとステップアップしていくごとにそのスキルは現実のケンジにもリンクしていく。
特養でのシビアな価格交渉や人間関係の調整に、16世紀の海で磨かれた冷徹な商人の牙が剥き出しになっていく。
目指すは、黄金の国インド・カリカット。
黒コショウがもたらす莫大なクルザード金貨を求め、48歳の管理栄養士は二つの世界を往復する。
魔法もチートもない。
あるのはギリギリの生存競争と、人間の剥き出しの感情だけだ。