あらすじ
札幌・ススキノの外れに、小さなバーがある。
看板は目立たず、気づかない人間の方が多い。
それでも、なぜか辿り着く客がいる。
迷ったわけでもなく、
探していたわけでもなく、
ただ、気づいたら扉の前に立っている。
そんな夜がある。
店の中は静かだ。
音楽は流れていない。
氷の触れ合う音と、グラスのわずかな響きだけが、時間を刻んでいる。
ここでは、特別なことは起きない。
ただ、
忘れていた記憶が、ふと浮かび上がったり、
選ばなかったはずの人生が、形を持って現れたり、
いないはずの誰かが、隣に座っている気がしたりする。
それだけのことだ。
店主は多くを語らない。
問いかけることはあっても、答えを与えることはない。
ここは、何かを解決する場所ではない。
ただ、
気づくための場所だ。
自分が何を持っていて、
何を手放してきたのか。
そのことに、
静かに触れるための場所。