あらすじ
後輩が泣いている。入社三日目で。
フェネック獣人のフミノ。大きな耳に丸い眼鏡。内気でコミュ障で、人前に出るとガチガチに固まる。
高校受験は第一志望に落ち、大学受験は全落ち、就活は五十社落ち。冬採用で滑り込んだこの会社が、最後の居場所。
俺はOJTの指導員として、この子を育てることになった。
問題は明白だった。営業スキル以前に、自己肯定感が地殻の底にある。「わたしなんか」が口癖。何を言っても「わたしなんか」で返ってくる。
だから、褒め倒すことにした。
電話を取ろうとしただけで褒める。名刺を渡せたら褒める。出社したら褒める。ちょっと酔った勢いで「かわいい」と言ったら、フェネックの大きな耳がぴーんと直立してからへなへなと折れた。
作戦は成功した。フミノは少しずつ喋れるようになった。
——俺の前だけ。
ベテラン社員に言われた。「あの子がまともに喋れるのは、お前の前だけだ」と。
そして小声で教えてくれた。フミノが俺の歯ブラシを定期的に新品とすり替え、古い方を持ち帰っていることを。
もう引き返せない場所まで来ていたことに、気づくのが遅すぎた。
「先輩が——悪いんですよ?💞」
「わたしを、こんなにしちゃったんですから——責任、取ってくださいね?💞」