あらすじ
家族から冷遇され、唯一の自己表現である料理を心の拠り所として生きてきた侯爵令嬢ヴィオラ。
彼女はある日、王太子である婚約者から無実の罪を着せられ、婚約破棄と同時に極寒の北方辺境へと追放されてしまう。
嫁ぎ先は、妻を亡くして心を閉ざした「氷の辺境伯」レオンハルト。
愛のない政略結婚、厳しい自然環境。
しかしヴィオラは絶望することなく、持ち込んだ小さな包丁を手に辺境の台所に立つ。
彼女が無自覚に作る温かなスープは、精霊たちを惹きつける「大愛し子」としての奇跡の力が宿っていた。
その極上の味わいは、心を閉ざしていた幼い義娘エルナの笑顔を取り戻し、不器用で無愛想なレオンハルトの凍てついた心を静かに溶かしていく。
一方、ヴィオラの真実に気づき激しく後悔する王太子や、彼女の力を狙う王都の権力者たちが動き出す。
しかし、辺境の大地と精霊たち、そして何より彼女を愛する家族が、ヴィオラを手放すはずがなかった。
「あなたが辺境に来てから、私の止まっていた時間は動き出した」
これは、すべてを諦めていた少女が、辺境の台所から温かな居場所と真実の愛を手に入れるまでの、美味しくて心温まる奇跡の物語。
【登場人物紹介】
◆ヴィオラ・エーデルシュタイン(18歳)
侯爵家の次女。幼い頃から家族の冷遇を受け、感情を波立たせずすべてを受け入れることを覚えてしまった少女。唯一の自己表現である「料理」には、無自覚ながら精霊を惹きつける途方もない力が宿っている。不器用な辺境伯との出会いが、凍りついていた彼女の心を少しずつ溶かしていく。
◆レオンハルト・ヴァルトラーフ(32歳)
北方辺境を統べる辺境伯。三年前に愛する妻を亡くして以来、感情に硬い鎧を着せ、ただ領民と娘のために生きる男。口数が少なく無愛想だが、その本質はどこまでも誠実で優しい。ヴィオラがもたらした温かいスープが、彼の止まっていた時間を静かに動かし始める。
◆エルナ・ヴァルトラーフ(6歳)
レオンハルトの娘。母の死により心を閉ざし、人見知りが激しくなってしまった少女。ヴィオラの作る料理から「かあさまのにおい」を感じ取り、誰よりも早く彼女に心を開いていく。
◆アルフレート・フォン・ヴェルテ(21歳)
マグノリア王国の王太子であり、ヴィオラの元婚約者。悪意を持っていたわけではなく、正義感と善意からヴィオラを冷酷に切り捨ててしまった。後に自らの取り返しのつかない過ちに気づき、深い後悔に苛まれることになる。
◆シャルロット・ミュルベルク(17歳)
男爵令嬢。愛らしい容姿と見事な立ち回りで王太子の心を掴み、ヴィオラを陥れた張本人。しかしその根底にあるのは本物の悪意ではなく、歪んだ承認欲求と弱さである。
◆ルーチェ
精霊王の使いである上位精霊。ヴィオラを「愛し子」として常に見守っている。普段は言葉を持たない光の粒だが、物語の決定的な瞬間にのみ、その意志を言葉として伝える。