あらすじ
小学生の頃、平和学習で聞いた戦争体験者の証言が、佐伯伸二の中に深く残った。
特に忘れられなかったのは、弟の名前を口にする前の短い息継ぎと、「忘れないでください」という最後の言葉だった。
それ以来、伸二は戦争や記憶の継承に強く惹かれ、やがてそれを主題にした作家になる。
だが、証言や資料に触れ続ける中で、彼は痛みをそのまま受け取ると自分が壊れてしまうことを知る。感情に蓋をし、聞いたものを整理し、届く形に整える――その手つきは、いつしか職業技術として身についていく。
新作のために戦争体験者・柴崎峰子へ取材を重ねるうち、佐伯は自分の変質を直視せざるを得なくなる。
他人の痛みを作品に変えるだけではない。若い作家の揺れも、旧友の指摘も、自分自身の罪悪感すら、彼は“使えるもの”として見てしまう。
それでも作品は評価され、人に届く。感謝の言葉も返ってくる。
だからこそ彼は、自分のしていることを搾取と断じきれず、祈りと信じきることもできない。
忘れさせないために書き始めた男が、何でも素材にする人間へ変わっていく。
静かで苦い、文学寄りの現代ドラマ。