あらすじ
会社を辞めた。金も溶かした。負けたままで終われない。
南里恒一、三十五歳。かつて金融の現場でオプショントレードを担っていた男は、大きな損失で仕事も自己像も崩し、生活費を削りながら再起するため、瀬戸内の向島へ移り住む。
海が見えるからではない。安い。静か。相場に集中できる。東京へ戻るまでの仮設拠点。そのはずだった。
だが、住み始めた古家は湿気を吸い、雨風は容赦なく入り、島の暮らしは相場の時間では回っていなかった。近所との距離感、修理の手間、小さな商い、橋を渡る感覚。合理と損切りで生きてきた南里は、勝ち負けでは切れないものに少しずつ足を取られていく。
勝てば終わりのはずだった。
一億をつくって、自分はまだ壊れていないと証明する。そのために来た海辺で、削れないものが増えていく。