あらすじ

昭和十六年、秋。 真珠湾攻撃を間近に控えた日本の片隅で、一人の陸軍将校が、山中の寒村へ足を踏み入れる。 任務は、供出と備蓄の不審を調べること。 東北北部の寒村・蓮間村は、数年続きの冷害と貧しさに喘ぎながらも、奇妙なほど整っていた。道は掃かれ、家々は崩れず、村人たちは礼を失わない。だがその静けさの底には、飢えに歪んだ視線と、産をめぐる古い禁忌が沈んでいる。 村の中心に君臨する旧家・穂積家。 そこに仕える白い娘、穂積志乃。 そして、飢えた年ごとに囁かれる、返される子、腹を病んだ女、冬を越すための“戻し”の儀。 清根カンジは、帳簿の数字から村の闇へと踏み込み、やがて知る。 この村で祀られているのは、山の神でも祖霊でもない。 産み、喰い、返し、また産ませる―― 家の腹に棲む、二つにして一つの、名状しがたい飢えであることを。 これは、戦争の物語ではない。 時代の寒さを底に敷き、飢餓と差別と因習のなかで、ひとつの村とひとりの女が、ゆっくりと喰われていく物語である。 生き残るのは、正しい者ではない。 ただ、最後まで腹の音を聞いてしまった者だけだ。

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カクヨム
カクヨム2026/04/11
  • 現在の作品両腹村奇譚