あらすじ
うちの学校には懺悔室がある。
懺悔室とは言いつつ、実態は壁を挟んでカウンセラーと話すお悩み相談室だ。
カウンセラーの女性は、ユニコーン獣人のクレア。誰も素顔を知らない。声だけの存在。
それでも、その圧倒的な癒し能力から「聖女」と呼ばれており、懺悔室の利用が抽選制になるほど、学園中の生徒が殺到する人気の場所だ。
だが、俺は興味がなかった。抽選に応募したこともない。胡散臭いと思っていた。
そんなある日の帰り道、俺は街中で自転車をドミノ倒しにしてしまった女性を一時間かけて助けた。帽子を被った、顔の見えない女性。「必ずお礼をします」と言って去ったが、連絡先も名前も交換していない。
翌日、懺悔室の当選メッセージが届いた。応募していないのに。
別館に向かうと、聖女の声が言った。
「あなた様は、そっちじゃありません」
利用者の部屋ではなく、クレアの部屋に通された。鍵が開いた。中にいたのは——角を生やした、人間離れした美貌の女性。
「気づいてくれないんですか?」
抱きしめられた。クレアは昨日助けた女性だった。
ユニコーン獣人のハグには回復効果があるらしい。体力と精神力がほんの少し戻る。
これが恩返し。——のはずだった。
ハグされたまま、懺悔室の利用者が来た。壁の穴越しに、聖女は穏やかに相談に応じている。俺の顔を胸に埋めたまま。声を出したら気づかれる。
「静かにしていてくださいね?」
翌日も来てくれと言われた。翌日も。その翌日も。
クレアの恩返し、否、要求は、少しずつ——少しずつ、エスカレートしていく。
「通常のハグでは、癒しきれません💞」
「肌同士の接触の方が、回復効果が高いのです💞」
「もう少しだけ、近くに来てください💞」
聖女の仮面の下で、何かが壊れていく。