あらすじ

帝都電脳博覧会にて、厳重な警備下にあった蓄音機「魂の奏者」が消失する。現場に残されたのは、「今夜。支払期日。査定不要。盗難は事故の顔をする」とだけ記された予告状――怪人二十面相の名を冠した犯行であった。 帝都電脳損保の調査員・種市は、保険査定の立場からこの事件に関わる。現場は硝子が割られておらず、内側から開けられた形跡のみが残る。さらに重要部品である真珠振動子《月読》は“付属品扱い”とされ、契約上は評価対象外となっていた。種市は、この事件が単なる盗難ではなく、「盗難を装った事故」として保険金を成立させる構造である可能性に気づく。 一方、帝都電脳警察の五十嵐警部は、目撃証言の異常性に着目する。老人、少女、軍人と証言が食い違い、誰一人同じ姿を見ていないにもかかわらず、全員が「怪人二十面相を見た」と確信している。二十面相は人物ではなく、記憶に干渉する“現象”として機能していた。 その裏で、サーカス団の看板スター・麻衣子は、病に倒れた子どもたちを救うため、資金と薬を得る必要に迫られていた。彼女は渋沢財閥の関係者・佐伯と接触し、取引の中で事件に巻き込まれていく。そして、真実を知った麻衣子は、自ら「怪人二十面相」となり、帳簿を奪って真相を暴く決意をする。 健一が拾った断片的な紙片は一度は誤報に見えるが、そこに記された時刻の癖が事件の起動線と一致する。麻衣子が命懸けで運ぶ帳簿、五十嵐の追う現場時刻、そして健一の断片。それらは種市の机上で一本の線に繋がる。 その結果、明らかになるのは、渋沢財閥が「盗難事故」を意図的に発生させ、保険制度を利用して資産を移転させる仕組みだったという事実である。《月読》はすでに抜き取られており、「魂の奏者」の盗難は計画の一部に過ぎなかった。 最終局面で、麻衣子は帳簿を種市に託し、自らは二十面相として姿を消す。五十嵐は彼女を追うが、同時に彼女を利用していた構造そのものを暴く決意を固める。 種市は帳簿と証拠をもとに、事件を「事故」として成立させることを拒否し、本来の責任の所在を明らかにする査定を下す。 怪人二十面相は捕まらない。 だが、彼女が残したものによって、「事故」という名の偽装は破綻する。 最後に査定されたのは、金ではなく、人の罪だった。

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カクヨム
カクヨム2026/04/10
  • 現在の作品帝都電脳損保:アジャスター種市の事件簿 〜変幻の怪人二十面相と模造された真珠〜