あらすじ

十一月の電車で案件ファイルを読む篠崎は、築四十年目のマンション最上階六号室を調査する。十一年前に住人が失踪し、扉が開かず作業員が失神した異常空間だ。現場に着くと、廊下の光が敷居で止まり、部屋内は時間が停止していた。観測針は動かず、窓外の鳩さえ空中で静止している。  防護服で入室した篠崎は、均質な光に満ちた部屋で埃の立たぬ床を歩き、机の重いノートを開く。そこには二〇一三年、妻・茉莉の余命三ヶ月が宣告された男の日記があった。桜の花びら、握った手、通院の記録、食べられぬ食事の詳細――変わることを怖がる男と、変わりを肯定する妻の日常が綴られる。やがて「探した」「見つけた」と繰り返し、この部屋が時間の外にあると悟り、茉莉を連れ込み死を止めた。  その後十一年、男は変わりゆく自分と変わらぬ妻を繰り返し見つめ、救いと苦しみをノートに刻む。「私だけが変わっていく」。最近、十分だと悟り、最後のページに「今日で最後にする。私も中に入る」と記す。  篠崎が読み終えると、疲れた男が現れ、ためらいなく部屋に入り妻の隣に座る。二人は並んで止まる。篠崎は「二名確認、時間停止状態」と報告し、日記のことは伏せる。部屋は封鎖された。

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エブリスタ2026/04/09
  • 現在の作品世界で一番変わらない部屋