あらすじ
景司と道子は結婚を約束し、指輪を共に選ぶほどの仲であった。しかし、両家の価値観の違いが次第に溝となり、静かな話し合いの末に破談となる。互いに別れを望んだわけではなかったが、どうにもならぬ現実が二人を引き離した。景司は渡せなかった指輪を手放せず、幾度も捨てようとしながら持ち続ける。一方の道子もまた、指のサイズを書いた紙を捨てられずにいた。やがて時が流れ、二人はそれぞれの場所で、過去を「重荷」ではなく「残されたもの」として受け入れていく。ある日、偶然の再会を果たした二人は、言葉少なに過去を確かめ合い、景司は指輪を道子に託す。指輪はもう約束の象徴ではなく、確かに存在した時間の証として手渡される。失われたものではなく、形を変えて残るものを描いた人情譚。