あらすじ
1993年、夏。携帯電話もSNSもない時代。
激しい失恋で心に深い傷を負っていた高校2年生(18歳)の伊沢は、バイト先のジャスコで密かに気になっていた孤高でクールな17歳の後輩・原田さんに声をかける。
「今度一緒に映画行かない?」
「はい。いいですよ」
B級アクション映画を愛する彼女の、あまりにもあっさりとした即答。
そこから、止まっていた伊沢の時間が再び熱を帯びて動き出す。
しかし順調に距離を縮めていた矢先、彼女から突然「バイトを辞めるかもしれない」と告げられる。
焦燥に駆られた伊沢が切った最後のカードは、愛車「CB-1」での夜のツーリングだった。
新御堂筋を駆け抜けた先の夜の海遊館、漆黒の港に浮かぶ護衛艦。
そして夏休みの終わり、二人は深い山奥に鎮座する天河大弁財天社へと向かう。
圧倒的な静寂の境内。
巨大な「五十鈴」の音が深山幽谷に響き渡る時、伊沢は己の運命を懸けた勝負に出る――。
「はい。いいですよ」
あの時と同じ言葉なのに、全く違う熱量を持ったその一言が、不器用な男の運命を完全に上書きした。
【本作について】
現在連載中の『とある女子高生17歳と18歳男子高校生の日常 New Season!If ─1993.9〜─』の前日譚となる、一話完結の短編です。
二人がどのようにして距離を縮め、恋人同士になったのか。
もどかしくも熱い、すべての始まりの夏を描きます。
本編未読の方も、この「エピソード・ゼロ」から一つの物語としてお楽しみいただけます。