あらすじ
母を亡くし家族関係が歪んでから、どこか空虚な日々を送っていた高校生・萩原怜の前に、ある日、天使を名乗る翼のない少女が現れる。後に琥珀と名付けられるその天使は、自らの目的を明かさぬまま萩原の家に転がり込み、奇妙な共同生活を始めた。戸惑いながらも、萩原は琥珀との時間の中で、誰かと関わることや自分の感情と向き合うことを少しずつ覚えていく。
そんななか、どこか不安定な様子を見せていた親友の桧山が、文化祭を目前に控えたある日、交通事故で命を落とす。突然の死に動揺が収まらない中、現れたもう一人の天使によって、その死が自ら選んだものであったこと、そして琥珀が萩原の前に現れた理由――萩原の心が無意識に死へ近づいていたことを知らされる。
琥珀が情けをかけて自分の側にいたことを知った萩原は琥珀と決別し、ひとり死へと近づいていく。しかし、父との再会を通して母の記憶に触れたことで、その思いは揺らぎ始める。さらに、琥珀が翼を持ちえない理由と彼女自身の抱えてきた想いを知ったとき、萩原は自らの感情に向き合い、答えを見つけていく。
やがて、役目を終えた琥珀との別れの時が訪れる。限られた時間の中で想いを伝えた萩原は、初めて自らの意思で前へ進むことを選ぶ。悲しみも喜びもすべてを抱え続けるのではなく、自分にとって大切な記憶や想いを選び取り、残りを手放していく。
――消えない痛みと孤独を抱えたからこそ、この先の道を自身で選択する。
桜の記憶と、琥珀色の温度を胸に抱いて、萩原は歩き出す。
これは、喪失と再生を通して、人が自分自身の想いと向き合い、選び取っていく物語。