あらすじ
人を「行動」ではなく「人格」で罰することのできる宗教が存在する。
検事の越坂部律花は、公的記録ごと抹消された従兄弟の失踪事件を兄と共に追っていた。しかしその最中、兄は上司・葛島による苛烈なパワハラで追い詰められ、事故死する。現行法では葛島を裁けないと痛感した律花は、その宗教に属する青年ワルデマールを頼り、宗教裁判によって葛島の処断に成功した。
その後、二人のもとに、自身を宗教裁判にかけてほしいと懇願する謎の少女・赤砂愛恩が現れる。困惑しながらも処断を行うと、裁きに用いる聖典が暴走し、二人は気絶。目覚めた時には聖典が持ち去られていた。二人はそれを追い、その宗教の総本山・頽落本派へ向かう。
しかしそこで待ち受けていたのは、聖典により人格を失ったと推定される、葛島の死体だった。ワルデマールは犯人として拘束され、翌日に開かれる異例の特殊法廷で、律花は弁護人として証言の矛盾と隠された聖典の頁を突き、事件が第三者による偽装であることを論証していく。だが裁判長にして頽落本派の最高権力者ゼンタ・シュルツェ・エル=マスリは、愛恩の処断時にワルデマールが聖典の大原則を破っていた罪を利用し、法廷を逆転させる。
やがて更なる逆転をと律花が調査を進めるうちに、葛島の事件、兄の死、従兄弟の消失、そしてワルデマールの父が殺された夜の真相までもがゼンタへと収束していく。彼女こそワルデマールの母であり、すべての事件の核心に立つ存在だった。
罪を裁く法律と、咎を罰する聖典。相容れぬ二つが交錯したのちに、二人は失われた人と、その想いを背負い、「恕し」を掲げて新たな道を歩き出す。
それは、国家制度・政財界と癒着するその「聖なる力」を、本来の形へ、再度神聖化していく第一歩であった。
法廷ミステリ×ファンタジーの長編。