あらすじ

侯爵家を出て、二年が経った。
離縁のことは、もう誰にも話さない。
王都の外れに小さな部屋を借り、伯爵家の令嬢に刺繍を教え、静かに、過不足なく生きている。
泣いたのはいつだったか、もう思い出せない。
それで十分だと、思っていた。
ある晩、馴染みの花屋の前で、男が立っていた。
「セラフィーナ」
三年ぶりに聞く声が、当然のように名前を呼ぶ。
ヴィンセント王太子殿下――幼い頃から、ただひとり、自分を名前で呼び続けてくれた人。
「王宮へ来てください」
「お断りします。私はもう、十分に生きていますので」
翌日、部屋の前に花が一輪あった。
その翌日も。また翌日も。
受け取らない。でも、捨てられない。
必要とされなくても生きていける。
それはもう証明した。
だからあなたは、私を揺るがさないでください。
せっかく、平らになった心だったのに。
これは、ひとりで立つことを選んだ女が、
それでも誰かの隣へ帰るまでの物語。

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アルファポリス
アルファポリス2026/04/10
  • 現在の作品「もう十分に生きていると思っていた私に、殿下は毎日花を置いていきました」