あらすじ
仕事は正確に、誠実に。そうして積み上げてきた結果に、間違いはなかった。
文官として働くクラリス・ヘルムは、幼い頃から「正しくあること」を教えられて育った。感情に流されず、与えられた役割を果たす。それが自分の在り方だと疑ったことはない。
そんな彼女の直属の上司、ルシアン・ヴェルディエは、非の打ちどころのない人物だった。
仕事は的確で、人当たりも良く、常に余裕を崩さない。理想的な上司――それが彼の印象だった。あの日までは。
偶然耳にしてしまったのは、彼の本音だった。面倒だとこぼす愚痴も、隠しきれない疲れも、すべてが“完璧な上司”とは違う顔だった。
それを知っても、失望はしなかった。むしろ、少しだけ安心した。
けれどそれ以来、彼の言葉や仕草が、以前とは違って見えるようになってしまった。
これは、仕事しか見ていなかったはずの私が、完璧な上司の本音に、少しずつ振り回されていく話。