あらすじ
――重い。まぶたが、鉛のように重い。
意識の底で、誰かの声が遠く響いている。
「……グラナータ様、しっかり……」
誰だ? 俺は……大月宝(おおつきたから)、空手道場の師範だったはずだ。
だが、今、俺の体は自分のものではない。手足が小さく、柔らかい。
目を開けると、天井の梁が見えた。木の香り、藁の匂い、どこか懐かしいようで、しかし明らかに異質な空気。
――ここは、どこだ?
周囲には見知らぬ顔。豪奢な衣服を纏った男女が、俺を囲んでいる。
「……グラナータ様、目覚められましたか?」
年配の女性が、優しく微笑む。その背後には、紋章の入ったタペストリー。
――グラナータ? 誰だ、それは。
だが、頭の奥に、奇妙な記憶が流れ込んでくる。
貴族の五男、グラナータ・フォン・エルディア。
拳闘士の家系に生まれ、爪使いとしての訓練を受けてきた少年。
俺は、異世界に転生したのか――?
混乱とともに、前世の記憶と新たな人生の記憶が、渦を巻くように交錯する。
だが、今は考えている暇はない。目の前の現実に、まずは向き合わなければならないのだ。