あらすじ
眠れない夜が続いていた。
会社での疲れを抱え、妻・美幸との間にいつからか漂うようになった微妙な距離感。
立花浩介は答えのない夜を持て余して、気づけば毎晩こっそりと家を抜け出すようになっていた。
行き先は、三丁目の角。コンクリートの壁に半分埋まるように立つ、古びたうどんの自動販売機。
硬貨を入れ、ボタンを押す。ガコン、という音とともに現れる熱いうどん。
ただそれだけのために、浩介は深夜の街を歩く。
しかしその自販機には、浩介だけが来るわけではなかった。
両親の喧嘩から逃げ出してきた小学生の女の子。
リストラを告げた翌日に自分も職を失ったスーツ姿の男。
息子と疎遠になった老人。
故郷を離れる決意をしたばかりの若い女性。
誰もが深夜に、誰かには言えない何かを抱えて、ここへやってくる。