あらすじ

人間と魔族が共存する熱帯の特別行政区。その片隅にある定員四名で相部屋の安宿で怠惰で自堕落な日々を送る料理人崩れの日本人・ヨウの部屋に、サキュバスの少女リリーが転がり込んでくる。特区の濃密な欲望にあてられ行き倒れていた彼女は、ヨウをはじめとしたシズやアレックス、ロカやカフェのオーナーといったカフェの面々の救護により一命を取り留める。リリーの正体は、特区の一流大学から逃亡したサキュバスの国の王女だった。人間を憎むように仕向けられ、政争の飾りにされる運命に絶望して逃げ出してきたのだ。ヨウは彼女に屋台のジャンクフードを教え、水族館の「檻」の中でも誇り高く泳ぐ人魚の姿を見せる。交流を通じて特区の泥臭い活力を知ったリリーは、「与えられた環境の中でどう生きるかは自分で決められる」と悟り、自身の運命と向き合う覚悟を決めていく。だが、領事館と警察の追手による捜索網が二人に迫る。暗い路地裏で包囲された窮地で、リリーは能力を暴走させて周囲の精気を強制捕食し追跡者たちを昏倒させるが、巻き込まれたヨウも低血糖で倒れてしまう。逃げ込んだ高級ホテルの冷凍庫で凍死寸前となるヨウを、リリーは莫大な熱と精気を口移しで分け与えて救済する。追っ手をやり過ごしカフェへ帰還した二人。リリーとの交流でヨウもまた「誰かのために料理を作り、喜んでもらう」という料理人としての純粋な原点を呼び覚まされた。ヨウが万感の思いを込めて作ったチーズバーガーを平らげた後、リリーは代金を身分証であるブラックカードで決済する。それは祖国へ自身の居場所を知らせ、逃亡生活に終止符を打つ合図だった。間もなく国家の迎えがカフェを包囲する。逃げることなく最後のコーヒーを味わい、覚悟を決めたリリーは、自らの足で誇り高く帰るべき場所へと向かっていくのだった。

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カクヨム
カクヨム2026/04/09
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