あらすじ
「……もういい、こっちでやっておくよ」
社会に出た主人公の優二は上司のそんな言葉に怯えながら、理想からは程遠い「大人」として生きていた。
そんな日々の中で、優二は時々思い出す。縦横105×68メートルの芝生のコート。サッカーボールを追いかけ、必死に走り回った日々。熱を帯びていた青春の日々も、忙しなく過ぎていく時間に押し流され、遥か遠くに思っていた。
そんな優二に1通のメールが届く。それは、かつて同じユニフォームを身にまとい、共に芝生をかけた直人からだった。直人はかつてのチームメイトを集め、フットサルを開催するのだという。
久しぶりに顔を合わせた仲間たちは、昔と変わらない笑顔でそこにいた。軽口を叩き合い、くだらないことで笑い転げる。けれどその一方で、結婚や仕事の話がふとした瞬間に混じり込み、それぞれが確かに時間を重ねてきたことを突きつけてくる。
思うように動かない身体。かつての自分との落差。誰かと比べてしまう心。
それでも、ボールを追いかけるうちに、優二は思い出す。
ただひたすらに走り、仲間と声を掛け合い、一つのゴールを目指していたあの頃の感覚。そして、自分にも確かに「誰かの役に立てた瞬間」があったことを。大人になれば、自然と何かが変わると思っていた。けれど現実は、何一つ劇的には変わらない。
それでも――
今この瞬間も、あの日の延長線上にある。
変われなくても、いいじゃないか。
そう思えたとき、優二の見上げた空は、少しだけ広く、そして青く見えた。
これは、大人になりきれないまま生きるすべての人に贈る、ささやかな再出発の物語。