あらすじ
彼は知っている。
皆が恐れ忌むこの雨が、他ならない〝慈雨〟であることを。
なぜならば。皮肉なことに、この公害と称される雨こそが、人間同士の殺し合いを制する究極の抑止力として機能しているからだ――。
「喰雨《しょくう》」という公害が広く認知された現代。
七〇年代後半より発生したこの公害雨は、それに打たれた者を「喰雨獣《ウーヴェン》」という怪物に変える恐ろしい性質を持っていた。
喰雨獣となったものを救うことは困難であり、この〝公害病〟に、世界は「クローズドな」立ち振舞を余儀なくされた。
各国の都市はそれ単一で生産消費活動が完結するアーコロジーとしての都市設計が基本として根付き。
それはこの、海洋メガフロート型都市「こうよく」もまた例外ではなかった。
細々とした争い事や荒事、困り事までを引き受け報酬を得る「稼ぎ屋」である暮威奏真。
彼はかつて喰雨に打たれ肉体を変成させた、「人相形象ならびに思考想念を持続している喰雨獣」――「喰人《くらうど》」だった。