あらすじ

大手町の生命保険会社で働く六十一歳の派遣社員・植山麻実《うえやまあさみ》は、ある日突然、上司の佐藤から契約終了を告げられる。理由は、麻実が手作業で行っていたデータ集計業務が、予想より早く開発されたAIシステムに統合されることになったためだった。かつて外資系IT企業でバリバリと働き、早期退職後も専門スキルを武器に渡り歩いてきた麻実にとって、自身の仕事が「AI」に奪われるという現実は、社会から「不要」だと突きつけられたような深い喪失感をもたらす。  次が見つからない焦りと目減りする貯金への不安を抱えたまま、麻実は以前から約束していた元後輩の瑤子との台湾旅行へ出発する。華やかな台北の街、未来都市のような「台北101」タワー、そして親日的な現地の若者たちとの交流。九份の雨音の中で、麻実は完璧な人生を送っているように見えた瑤子もまた、家庭内の孤独や将来への虚しさを抱えていることを知る。恵まれた者への嫉妬を吐露し、互いの痛みを分かち合った二人は、「何が起きるかわからない不確実な時代だからこそ、今この瞬間を灯りとして生きていくしかない」という境地に達する。  現実逃避のような旅の中で、麻実はふと目にした殺人事件の献花台や衛兵交代式の厳格な空気から、平和な日常の裏側にある「戦慄」を肌で感じる。  帰国後、麻実のもとに吉報が届く。それは、イタリアの高級宝飾ブランドでの、AIが検知した不正データを最終的に人間が判断する「AIと人間のハイブリッド」業務だった。一度はAIに仕事を奪われた麻実が、今度は人間の「経験」を武器にAIを使いこなす側として再起する。手元には台湾でもらったターコイズ色のナイフ。麻実は不確実な未来を恐れず、真っ白な来年のカレンダーに新たな一歩を刻む決意をする。

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カクヨム2026/04/09
  • 現在の作品台北101