あらすじ
東京で暮らす蒼は、祖父の四十九日で実家に帰省する。祖父の遺したアルバムを整理するうち、若い祖父、少年時代の父、幼い自分の写真に、必ず同じ山中の空き地が写っていることに気づく。
そこには平らな大きな石があり、蒼の記憶にはない場所だった。さらに段ボールの底から『末永家覚書』を見つけ、末永家の男は代々一度だけ“あの場所”へ行き、そこで人生が変わるのだと知る。祖父は蒼に、その場所へ行けと遺していた。
翌朝、蒼は導かれるように裏山を登り、記憶も地図もないはずの道を迷わず進んで、写真と同じ空き地に辿り着く。石の上に立っても奇跡は起こらないが、父との距離、言えなかった進路の衝突、家族の沈黙が静かに胸に浮かび上がる。山を下りた蒼を、玄関で待っていた父はただ「行ってきたか」とだけ言う。その一言で、父もまた過去に同じ場所へ行ったのだと分かる。
蒼は撮った写真を印刷し、祖父・父・自分の写真と並べてアルバムに挟む。石は変わらず、家族の時間だけが積み重なっていた。