あらすじ

市役所の職員・宮本透は、廃校となった古い木造校舎の「廃校舎解体可否調査」のために訪れると、そこには荒れ果てたはずの校舎が異様に手入れされたまま残っていた。草刈りの跡や雑巾がけの痕、花壇の名残などから、誰かが定期的に手をかけている気配を感じる。夕暮れの光に浮かぶ校舎の静けさに、透は仕事であるはずの調査を忘れそうになる。  廊下を進むうちに、校舎のはずの学び舎が違和感なく整った教室として残っていることに違和を感じる中、廊下の奥から、普段ならありえない柔らかい光と、子供たちの声や先生の声が聞こえてくる。引き戸を開けると、そこには七十年前の空襲で全焼したという校舎ながら、机と椅子が並び、夕方の光が差し込む教室があった。声をかけると、そこには中村という女性教師と、学年も服装もバラバラだが、和気あいあいと算数を学ぶ十人ほどの子供たちがいた。  中村は、この教室は「変わらない場所」であり、時間そのものは止まっていないが、「ここだけは変わらない」と決められている場所だと説明する。透が読み解かされるのは、かつて戦時中に子供たちを守るために、この学校に預けた親たちの嘆きを込めた手紙の数々と、空襲の夜、先生が判断を誤り子供たちを閉じこもらせ、校舎が全焼した記録だった。その報告書には、十一人の子供と一人の教師の「安否不明」という言葉が冷たく残っていた。  やがて、戦争中、同じ小学校に通っていた父の死を思い出した透は、ここが父の友人たちが「どこへも行けなかった」場所であること、七十年以上、この教室が「終わらない授業」を通じて、帰る場所を失った子供たちを守り続けていたことを理解する。最後に、解体可否の欄に「否」と書くことを決めず、何も書かずに書類を鞄にしまった透は、朝の光に包まれた校舎を見ながら、静かに車を走らせていく。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/04/08
  • 現在の作品変わらない教室