あらすじ
小国ルクセンランド王国北部――名門グレーヴェンマッハ伯爵家の庭園で、ひとりの青年がしゃがみ込んでいた。
「うん……よく育ってる」
アクセス=グレーヴェンマッハ。穏やかな緑髪の伯爵令息だが、剣や政治には見向きもせず、ただ薬草を愛していた。小さな芽に触れ、彼は静かに微笑む。
「この回復草があれば、きっと多くの人が助かる」
だが、その平穏は唐突に壊される。
「兄上、また土いじりですか?」
弟ネトルドの嘲笑。その隣には、かつての婚約者アルビーがいた。
「私はネトルド様と婚約しましたの。あなたでは頼りないもの」
冷たい宣告に、アクセスは言葉を失う。
その夜、父ワルソック伯爵は無情にも告げた。
「お前には失望した。勘当だ。出ていけ」
継母の嘲笑の中、すべては奪われた。
数日後――。
わずかな荷物と共に、アクセスは国を追われる。だが彼の胸にあったのは絶望ではなかった。
(これで自由に薬草を育てられる)
辿り着いたのは隣国スペイラ帝国、モナコラの町。そこで出会った薬草園の女性サリーに拾われ、彼の新たな人生が始まる。
やがて彼の育てる薬草は“奇跡”と呼ばれ、帝都にまで名を轟かせた。
一方その頃――。
故郷では魔物被害が広がり、薬草不足により領民は苦しんでいた。
「前の若様なら助けてくれたのに……!」
重傷を負ったネトルドは後遺症を残し、伯爵家は急速に没落していく。
青空の下。
アクセスは今日も畑を耕し、穏やかに笑う。
「いい天気だな」
追放された青年は今、誰よりも自由で――そして幸せだった。