あらすじ

遅いですわ

名前のない日々に
最初から名札はついていなかった

白い壁と、少し古い匂い
誰かの泣き声が夜を均す
あれはたぶん、わたしだった

捨てられた理由を
大人は優しい言葉に言い換えるけれど
言葉はいつも
事実より少しだけ臆病だ

だからわたしは
事実の側に立つことにした

条文は嘘をつかない
少なくとも、人よりは

守られるべきものが
守られないまま放置されるなら
それは不運ではなく
構造だと知った日から

わたしは泣くことをやめた

代わりに
書くことと、読むことと、戦うことを覚えた

正しさは、ときに刃物だ
それでも持たなければ
誰かの喉元に当てられるのは
いつだって弱い側だから

拍手の音は
意外と軽い

総理、という呼び名も
紙一枚の重さしかない

ただ
積み重ねた夜だけが
わたしの体温に似ている

——あの日、
あなたたちはわたしを置いていった

理由は知っている
今なら、理解もできる

理解できてしまうことが
こんなにも冷たいとは思わなかった

「家族になりましょう」

遅れて差し出されたその手は
正しく整えられていて
非の打ちどころもなく
だからこそ
どこにも触れなかった

わたしはもう
待っていない

あの夜に置き去りにしたものは
あなたたちだけではなくて
わたしの中の
小さな祈りでもあったから

今頃引き取りに来ても
遅いですわ

これは勝利ではない
ただの時間の結果だ

それでも
この国のどこかで
名札を持たない子どもが
名前を呼ばれる日が来るなら

わたしは
もう少しだけ
ここに立っていようと思う

静かな場所で
誰にも聞こえない声で

「大丈夫」と言えるように

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アルファポリス
アルファポリス2026/03/19
  • 現在の作品転生したわたしは捨て子として養護施設で育ったが、法律を学んで日本初の女性総理になっていく。今頃引き取りに来ても遅いですわ♡