あらすじ
五年間、夫は一度も私の名前を呼ばなかった。
「奥方」。晩餐の席でも、社交の場でも。
私はただの肩書きだった。
代わりに名前を呼んでくれたのは、この領地に棲む精霊たちだ。
水脈を護り、土を癒し、魔獣を退けた五年間。
誰にも気づかれなかった五年間。
離縁状を渡した朝、夫は初めて「ユリアーナ」と言った。
遅い。遅すぎる。
精霊たちは私と一緒に領地を去った。
翌日、庭の花が全て枯れた。
一週間後、井戸が干上がった。
迎えに来たのは、かつて精霊術を教えてくれた人。
手には五年分の記録帳を携えて。
なぜ結婚前から記録を取り続けていたのか。
その答えは、まだ半分しか見えていない。