あらすじ
侯爵家の令嬢リゼットは、王太子妃候補として王城に上がることになっていた。
美貌、教養、魔力、そのすべてを備えた彼女が重宝される理由はただ一つ。彼女だけが作れる伝説級の秘薬――エリクサーの存在である。
傷を癒やし、病を祓い、肉体の衰えすら遠ざけるその薬は、王家にとって「国そのものを永らえさせる希望」だった。
だがリゼットは知っている。そんな力を差し出した瞬間、自分の人生は終わるのだと。王妃の座は栄誉ではない。王家に飼い殺される檻にすぎない。
そこで彼女は愚鈍で傲慢な悪役令嬢を演じ、婚約者候補である王太子と王妃の失望を買い、ついには辺境への追放処分を勝ち取る。
誰もが没落と笑ったその処分こそ、彼女にとっては望みどおりの自由だった。
最果ての寒村に身を寄せたリゼットは、名を変え、エルフの血を引くから老けにくいのだと村人に説明しながら、小さな診療所を開く。派手な奇跡は起こさない。ただ骨折を治し、熱病を抑え、難産の母子を助け、畑仕事で傷んだ手に薬草を配る。静かな日々。自給自足の暮らし。誰にも利用されない人生。
一方王都では、彼女を追放した代償がゆっくりと広がっていく。
王は病に伏し、王太子は治療法を求め、宮廷はかつて当たり前のように与えられていた奇跡が、二度と戻らぬものだったと知る。だがその頃、リゼットは辺境の村で、誰にも知られぬまま穏やかな百年目の春を迎えていた。