あらすじ
あらすじ
人類は、地上を失った。
数百年前——理由も経緯も、今では誰も語らない。ただ「地上には行けない」という諦めだけが、空中都市の常識として根を張っている。魔力の強さがすべてを決めるこの世界で、人々は雲の上に築いた文明にしがみつき、地上のことなど忘れたふりをして生きている。
空中都市《アルカナム・チェイン》。複数の浮島が鎖と橋で繋がれたその都市に、一人の少年がいた。
エイ・ヴォイド、十六歳。魔力ゼロ。
魔力こそが個人の価値を決めるこの世界で、エイは生まれた瞬間から制度の外に弾き出されていた。底辺区で育ち、蔑まれ、それでも学園に入学したエイの前で、異能が目覚める。
——《喰》。他者の力を、記憶を、人格を、丸ごと飲み込む能力。
強さは手に入る。しかし喰えば喰うほど、自分の中に「澱(おり)」が積もっていく。他者の意識が内側を侵食し、いつか自分が自分でなくなる日が来る。それはただの恐怖ではない。実例が、地上にある。
数百年前、地上を阻んだのは魔獣でも天災でもなかった。エイと同じ力を持って生まれたひとりの人間が、地上最大の魔獣を喰い、相打ちとなり、自我を失って化け物になった。その残滓が今も地上を覆い、魔力を持つ者を喰い続けている。
地上に降りられるのは、ゼロの者だけ。喰われるものを持たない者だけが、あの場所へ行ける。
エイは知っている。強くなるほど、自分が消えていく。それでも降りなければならない理由が、きっとある。
失われた地上を取り戻す物語。制度の外側に弾き出された者たちが、空の底へ向かう。
登場人物紹介
エイ・ヴォイド(16歳)
魔力ゼロで生まれた少年。底辺区育ち。学園入学と同時に異能《喰》が目覚め、他者の力・記憶・人格を丸ごと飲み込む力を手に入れる。強くなるほど自分の中に「澱」が積もり、いつか自我を失う危険を抱えながら前へ進む。称号《喰皇》。
セナ・アルヴィス(16歳)
魂読みの能力を持つ少女。D級。エイの変化を誰よりも敏感に感じ取ることができる。エイにとって、自分が自分であり続けるための錨のような存在。
ミア・ベルン(16歳)
A級の実力を持つエイの元恋人。かつてエイと同じ場所に立っていたはずが、二人の間には今、見えない距離がある。
カイル・レストア(18歳)
かつてS級と呼ばれた天才。エイの《喰》によって魔力をすべて失い、廃人一歩手前まで追い詰められた。すべてを失った今、錬金術師という新たな道を歩み始めている。旧名、カイル・アストレア。
ライラ・ヴェルム(27歳)
獣人(狼族)の計測官。A級という実力で種族の壁を部分的に突き破ってきた女性。それでも完全には対等になれない微妙な立場で、エイの記録者として関わり続ける。