あらすじ
二月十四日。
卒業まで一か月を切った教室は、いつもより少しだけ静かだった。
女子は机の中を気にし、男子は意味もなく席を立つ。
毎年同じようでいて、この時期だけ空気の流れが変わる。
真北朔は、その変化を眺める側だった。
空気は読む。けれど、自分から輪の中には入らない。
面倒ごとは避けたい。けれど、目の前で困っているものを放ってもおけない。
そんな朔の隣に、南雲結衣は何のためらいもなく座る。
「ねえ、好きって、どうやったらわかると思う?」
距離が近い。
声も近い。
質問だけが、いつも少し唐突だった。
恋愛に興味がないわけではない。
ただ、自分の気持ちに名前をつける感覚が、南雲にはまだよくわからない。
義理チョコ、本命、予約された第二ボタン。
卒業を前に、教室には言葉にならない感情が少しずつ増えていく。
そのころから朔は、南雲の近くでだけ教室の音がわずかに遠くなることに気づき始める。
誰も気づかないほど小さな違和感。
けれど確かに、何かが少しずつずれていた。
卒業式まで残りわずか。
主役ではないはずの二人にも、まだ名前のつかない青春が静かに近づいていた。