あらすじ
親友に彼氏を寝取られた夜、神蔵朝凪《かみくらあさな》は当てもなく夜道を歩いていた。
気づけば見知らぬ石畳の参道に立っていた。両脇に巨木が並ぶ、山深い神社の境内。束帯姿の従者二人——黒夢《こくむ》と白夜《びゃくや》——に告げられた言葉は、「辻取り」だった。
輿にも牛車にも乗らず、伴も連れず夜道をひとり歩く女は、妻として迎えてよい。平安の昔よりの慣わしを、二人は令和の世に実行した。
「それは令和では犯罪です!!」
怒鳴り込んだ本殿の奥で、朝凪が見たのは——几帳にくるまって引きこもる、呆れるほど美しい青年だった。山の神、盤石山之大神。通称、バン。
バンには事情があった。数百年にわたって慕い続けた神に、あっさりと振られた。それ以来、天岩戸よろしく神域に引きこもり、山を荒らし続けていた。
朝凪は容赦しなかった。胸ぐらを掴み、ガクガクと揺さぶり、寝床ごと投げ飛ばした。口では罵倒し、涙では本音をさらけ出し、腹が減ればおかわりを要求した。
数百年、誰も正面からぶつかってこなかった。
バンは、初めて笑った。
「長く生きてきたが、これほどわしに楯突いた人間は初めてじゃ」
片思いのまま二年で振られた女と、片思いのまま数百年で振られた神。年月は違えど、傷の重みは同じだと、朝凪は言う。
似た者同士が引き合わされた、朝と晩の、奇妙な縁の物語。