あらすじ
八歳の夏、棺の中の祖母は「もう誰でもない顔」をしていた。あの日から二十七年、槙乃千歳は死の恐怖を哲学書で武装してきた。エピクロスもストア派も知っている。知っていて、深夜の虚無にはまるで歯が立たない。
親友の余命宣告をきっかけに、千歳は霊能者・水鏡凪と出逢う。凪は死者が見える。前世が見える。「死は魂の衣替えにすぎない」。凪の確信は千歳に安息を与え、千歳は凪に心を預けていく。
しかし一人の元脳神経外科医が、凪に問いを突きつける。
「あなたが見ているものの意味は、あなたが付与しているのではないですか」
凪の確信に亀裂が走る。生まれて初めて「無」の恐怖を知った凪と、足場を失った千歳。答えを与える者と受け取る者の関係が崩れたとき、二人の間に残ったものは何か。
死の恐怖、意識の謎、臨死体験の科学。人類最古の問いを軸に、信じること・知ること・隣にいることの境界を描く。