あらすじ
スペイラ帝国――大陸でもっとも繁栄する巨大国家。
その帝都の夜は、屋台の煙と人々の熱気に包まれていた。
その賑やかな屋台街で、気楽に串肉を頬張っている青年がいる。
銀色の髪に整った顔立ちのその男の名は、ルイス=スペイラ。
――帝国第三皇子。
だが、この場で彼の正体を知る者はいない。
彼は今、身分を隠して帝都を歩いていた。
理由はただ一つ。
彼には誰にも知られてはならない“秘密”がある。
それは――奇跡級の聖魔法。
神官すら凌ぐほどの力を持つその能力が世に知れれば、教会は必ず彼を「聖人」として囲い込み、帝国から引き離そうとするだろう。
それを恐れた母レオノールの願いもあり、ルイスは力を隠して生きてきた。
そんな彼が屋台で肉を楽しんでいるとき、ふと視線を感じた。
振り向くと、少し離れた場所に二人の少女が立っていた。
ぼろぼろの服を着た姉妹――アンとラナ。
二人は、ただじっと串肉を見つめていた。
ルイスは迷わず肉を買い足し、二人に差し出す。
恐る恐る口にしたラナは、涙ぐみながら呟いた。
「……おいしい……」
やがて姉のアンが打ち明ける。
彼女たちは昨日から何も食べていないこと。
父はおらず、母は家で倒れたままだということを。
気になったルイスは、危険だと止める従者セバスを連れ、二人の家へ向かった。
そこは帝都の影――貧民街。
崩れかけた家の中で、母メイルは死にかけていた。
このままでは、助からない。
ルイスは静かに手をかざす。
次の瞬間――
金色の魔法陣が広がり、神々しい光が部屋を満たした。
奇跡の聖魔法。
光が消えたとき、メイルはゆっくりと目を覚ました。
泣きながら母に抱きつく姉妹。
命を救われ、何度も頭を下げるメイル。
だが彼女は言う。
「お金が払えません……」
するとルイスは、さらりと告げた。
「じゃあ、ボクの仕事を手伝ってほしい」
帝都で経営しているレストランの仕事。
しかも賃金は銀貨五枚――庶民の倍以上。
さらに彼は言う。
「子供たちは学校に行こう」
突然の言葉に、アンは戸惑う。
だがルイスは笑って言った。
「これは投資だよ。将来、帝国の役に立ってくれればいい」
その優しさに、母娘は涙を流した。
だが――その夜。
ルイスが知らぬところで。
彼の秘密は、少しずつ帝都の闇に広がり始めていた。