あらすじ

魔法省の廊下は、いつも薄暗い。 けれど今日は、その暗さが妙に肌に馴染んだ。 婚約破棄の書状は、驚くほどあっさりしていた。 蝋で封をされた羊皮紙一枚。差出人は王太子殿下。 理由は「能力不足および王家への貢献の欠如」。 (……ああ、そう来たか) 私が三年かけて設計した防御魔法陣。 あの論文の著者欄から、いつの間にか私の名前は消えていた。 知っていた。気づいていた。 証拠を揃えるまでは動かないと決めていた。 なのに──先に切られた。 研究室の鍵を返し、荷物をまとめる。 手帳だけは胸ポケットに入れた。三年分の記録が詰まった、私だけの手帳。 正門を出ると、夕刻の風が頬を撫でた。 足元で白銀の小さな塊が、靴にすり寄る。ルル。唯一ついてきてくれた存在。 さて。定時退社だ。 もう残業する義理はない。 国境の向こうに、小さな公国があると聞く。 一歩を踏み出す。振り返らない。 ──けれど、振り返る必要がなくなる日が来るとは、このとき思ってもいなかった。

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小説を読もう2026/03/16
  • 現在の作品婚約破棄されたので定時退社します ~追放された宮廷魔法師は隣国で溺愛されて最強になりました~