あらすじ
福島出身の遠藤さつきは、東日本大震災後に東京へ移り住む。転職先の会社で、先輩社員・田村慶介に「ベクれてるじゃん」と笑われる。慶介は翌日には何も覚えていない。さつきは三年で会社を辞め、郡山に戻った。加害者の顔は、一週間でぼやけた。
二〇二五年四月、首都直下地震が東京を直撃する。慶介は自宅の倒壊で瓦礫の下敷きになり、三十一時間を生き埋めで過ごす。隣人の浜田老人、近所の鈴木が交代で傍に付き添う中、深夜には火事場泥棒まで現れる。救出後、右脚膝下を失った慶介は仮設住宅での生活を始める。
避難所の格差、共同トイレ、支援物資——見えない形で差別されてきたさつきの東京での三年間と、見える形で破壊された慶介の今が、静かに折重なっていく。慶介はやがて、他人(ひと)の痛みを想像できなかった自分と、それでも傍にいてくれた人たちの両方を、抱えたまま歩み始める。