あらすじ
聖域フィルネで暮らす少女『菜の花』は、薬師の母ノナから、勇者と聖女の物語を聞いて育った。
十四歳になった彼女が夢中になっているのは、勇者でも聖女でもなく、異世界の言葉だ。
学舎の講義で、異世界の文字「ひらがな」を目にして以来、菜の花は図書館に通いつめている。司書エルドンから日本語を学び、幼なじみのリーネとミラに呆れられながらも、のめり込む日々。
ある日、エルドンが日本語の『回文』を教えた。最初から読んでも、最後から読んでも同じになる、不思議な言葉。
エルドンと話すうち、菜の花は、奇妙な回文を発見する。
「しましまの服でエマ消えた。三田駅前で食ふのマシマシ」
「しましまのふくでえまきえた。みたえきまえでくふのましまし」
エマとは誰か。マシマシとは何か。
分からなかった。でも、背筋が痺れた。
三田駅前の麺屋では、マシマシという呪文で何かを増やしていたらしい。一種の儀式だったのではないか——エルドンは言った。
本当だろうか。謎は、マシマシ深まる。
その日から菜の花は、回文に取り憑かれた。作るというより、膨大な言葉の組み合わせの中から、『見つける』という感覚。自分でも、なぜこんなに惹かれるのか、分からなかった。
一方、聖域フィルネでは、異変が起きていた。
十五年ほど前、勇者と聖女とその仲間は『魔王ハノ』を封印し、勇者たちも同時に倒れた。
いま、その封印が弱まり、瘴気が漏れ出している。魔物は増え、森の木が枯れ、生き物を蝕んでいる。病人も増えた。
けれど、魔王が封じられて以来、勇者も聖女も現れていない。神官と巫女が『祈りの塔』で祈りを捧げ、瘴気を抑えている。それが現状だった。
いま一度、浄化の力を持つ聖女と、結界の力を持つ勇者が『封魔の森』へ行き、封印を強化しなければならない。
これは、回文をめぐる、ちょっと変わった異世界ストーリー。笑って泣いて、ときどき金ぴかになる、家族と言葉の物語です。何の役にも立たないけれど、ちょっとした奇跡めいたものを見つけられる、かもしれません。
※本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万字です。
※3月29日(日)まで、毎日20時に更新予定です。
※小説家になろうとの重複投稿をしています。