あらすじ

嘘つきな古物商と、ほどけない恋の結び目

古い店には
時間の匂いがする

雨に濡れた木の棚
欠けた皿
誰かの手を渡り歩いた時計

そして
まだほどけていない
人の記憶

---

「物は嘘をつかない」

彼はそう言った

冷たい声で
人には優しくないくせに

割れた茶碗には
子どもみたいな手つきで触れる

まるで
壊れた心を
拾い集めるみたいに

---

私は
嘘の匂いが分かる

甘い嘘
雨の嘘
鉄のような怒り

そして
どうしようもなく
悲しい嘘

古い手紙から
錆びた鍵から
あなたの沈黙から

---

九条堂の窓の外
季節はゆっくり流れる

春の埃
夏の夕立
秋の古本の匂い
冬の静かな灯り

その中で
いくつもの嘘が
ほどけていく

---

「嘘は嫌いだ」

あなたは言う

けれど

人は時々
嘘をついて
誰かを守る

愛する人を
守るために

---

だから私は知っている

嘘の奥に
隠れているものを

言えなかった言葉
渡せなかった手紙
ほどけなかった恋

---

古い器のひびは
金でつながる

壊れたものほど
光る

あなたは
それを知っている

---

ねえ

もし
人の心も
同じなら

きっと

あなたの孤独も
私の嘘も

いつか
ひとつの光になる

---

古物商は
今日も嘘を見抜く

私は
嘘の匂いを追う

そして

気づかないうちに
ほどけない結び目が
ひとつ

静かに
結ばれていた


連載情報

ウェブ小説

配信言語
アルファポリス
アルファポリス2026/03/15
  • 現在の作品『嘘つきな古物商と、ほどけない恋の結び目』