あらすじ

幕府筆頭記録官・紫苑の仕事は、歴史に嘘を刻むことだ。 権力者に阿り、真実を改竄し、都合の悪いものを歴史から消す。 かつて紫苑は、日ノ本の隣人であり守護者でもあった二つの少数部族――天鷹族と地獅子族――の誇りある歴史を、「無謀で愚かな蛮族」へと書き換えた。彼らの没落と引き換えに、筆頭記録官の地位と安寧。それが紫苑の罪だった。 そして今、その罪の報いが目の前に立っている。 幕府総帥の跡目争いを決する代理戦争。闘技場に引きずり出された天鷹族の翔刃と、地獅子族の獅童。一族の存続を人質に取られた若者たちが、他人の権力闘争のために命を賭けようとしている。 ところが――戦いの火蓋が切られた瞬間、紫苑は我が目を疑った。 片足でぴょんぴょんと跳ねる男と、四つん這いで全身を震わせる男。神話の双獣が繰り広げる死闘の実態は、あまりにも滑稽だった。そして両者が抜いた「神造兵装」は、泥まみれの大根と牛蒡であった。 嘲笑する政敵。激昂する観衆。処刑されかねない二人の若者。 紫苑は弾かれたように立ち上がり、歴史のすべてを編纂する筆頭記録官の権威を賭けて、渾身の嘘八百を叫び始めた。 これは、贖罪の記録である。そして、大根と牛蒡が幕府を救った日の、誰も知らない正史である。

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小説を読もう2026/03/15
  • 現在の作品記録管は、此度も嘘を歴史に刻む