あらすじ

満月の夜になると、私は時々、実家の屋上に上がる。 古い手すり、少し錆びた物干し台、頬を撫でる夜風。ここは昔から何も変わらない場所だ。 月を見上げるたび、思い出す夜がある。 十歳の頃、ピアノが嫌いになりかけていた私の前で、父がふらりと言った。 「パパな、一曲だけピアノ弾けるんだぞ」 太くて短い父の指が奏でたのは「月の砂漠」。 少し音を間違えながらも、やさしく響く旋律だった。 あれから年月が流れ、父はもういない。 それでも満月の夜、屋上に立つと、あの不器用であたたかな音が、今もどこかで聞こえる気がする。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/03/14
  • 現在の作品父と屋上と、月の音