あらすじ
交通事故で死んだはずの大学生・斎藤博が目を覚ますと、そこは月が二つ浮かぶ異世界だった。
魔物が跋扈し、獣耳の住人が暮らし、魔法が存在する——典型的な異世界転生。
そう思っていた。
ただ一つ、おかしなことがあった。
博が日本語を喋るたびに、この世界の人間が怯えるのだ。
「リンガ・モルティス」——禁忌の言語。死の言語。
かつて世界を滅ぼした災厄の民が使っていたとされるその言葉は、日本語だった。
口にしただけで処刑される。文字を読めるだけで異端とされる。
それが、博にとってのただの母国語だった。
銀髪の剣士・エリアだけが、博の言葉を理解できた。
祖母から密かに日本語を受け継いだ少女。
彼女は博に告げる。
「三千年前の本に、あなたの名前が書いてあった」
——これは異世界転生なんかじゃない。
ここは3000年後の地球だ。
魔法の正体は、古代文明が遺したナノテクノロジー。
魔法陣に刻まれた「聖なる紋様」は、漢字の成れの果て。
魔物は、文明崩壊後に変異した地球の生物。
そして日本語が禁忌とされている理由——
大崩壊を引き起こした技術の中枢は日本で開発され、
そのすべてのコードが日本語で書かれていたから。
世界最大の宗教国家クレイドル神聖国は、この真実を知っている。
そして、隠している。
日本語を解読されれば、「魔法」の正体が暴かれる。
神の奇跡が、ただの科学だったと知られてしまう。
だから禁忌にした。だから焼いた。だから殺し続けた。
博は死んでいなかった。
旧文明が崩壊の直前に起動した「人類再起プログラム」によって冷凍保存され、
3000年の眠りから目覚めたのだ。
言語学を専攻していた、ただの大学生。
だがこの世界では、博だけが読める文字がある。
博だけが起動できる技術がある。
博だけが知ることができる、人類の本当の歴史がある。
真実を公開すれば、世界は変わる。
だが3000年前、その技術は一度世界を滅ぼしている。
クレイドルは博を殺しに来る。
世界の秘密を守るために。
博は決断を迫られる。
真実を明かすのか。隠し続けるのか。
それとも——三度目の文明を、今度こそ正しく築くのか。
これは、最後の日本語話者が、
言葉の力で世界を取り戻す物語。